炭水化物とエネルギー ~炭水化物のルーメン内代謝~

ウシが餌から摂取した炭水化物は体内でどの様に代謝されるのでしょうか。

ルーメン内に入った多糖類、具体的にはセルロース、ヘミセルロース、ペクチン、でんぷん等は、加水分解を行う微生物の作用でどんどん細かくされて可溶性糖類になります。可溶性糖類は加水分解を行う微生物や発酵を行う微生物の作用を受けて、ピルビン酸、乳酸、ギ酸、コハク酸などの中間代謝産物になります。これらの酸はさらに微生物の作用を受けて、最終的に酢酸 酪酸 プロピオン酸といった揮発性脂肪酸(VFA)になります。VFAはウシのエネルギー源としてルーメン壁から吸収されていきます。一方発酵を行う過程で、余分な水素や二酸化炭素も発生します。水素はメタン古細菌の作用を受けてメタンに替えられ、二酸化炭素と一緒にげっぷ(あい気)として体外に排出されます。メタンは地球温暖化の原因でもあるので、ウシのげっぷからの排出量を減らす飼料の開発も行われています(図2-1)。

炭素区分のそれぞれの成分は最終的にどの有機酸に代謝されるのでしょうか。糖はルーメン発酵を受けるとプロピオン酸に、発酵されずに下部消化管まで流れるとグルコースとして吸収されます。でんぷんは、基本的にはプロピオン酸や酪酸として発酵されますが、量が多いと乳酸の割合が多くなります。ペクチンは主に酢酸に、一部酪酸に代謝されます。生産されたVFAはルーメン壁から吸収されて、肝臓や乳腺でさらに代謝を受けます。また、図2-2の右下の表に登場する有機酸のpHを示していますが、この中で乳酸が飛びぬけて低いpHを持っています。ルーメン内で乳酸が増えすぎると牛の健康に悪影響を与えます。

ルーメン内のVFA生産は、餌の中の粗繊維が多いと、酢酸:プロピオン酸:酪酸の割合が大体=6:3:1になるといわれています。一方ででんぷんの割合が多いと、酢酸の生成量が下がって、プロピオン酸と酪酸が多くなり、酢酸:プロピオン酸:酪酸=1:1:1になるといわれています。ルーメン内で生産されたVFAについて、酢酸は血中にそのまま取り込まれて抹消組織でエネルギー源として利用されたり、乳腺に取り込まれて乳脂肪の原料となったりします。酪酸は3-ヒドロキシ酪酸(BHB)として血中に取り込まれ、抹消組織でエネルギー源として利用されたり、酢酸と同じく乳腺に取り込まれて乳脂肪の原料となったりします。プロピオン酸はルーメン壁から吸収された後まず肝臓の糖新生によってグルコースに作り替えられます。グルコースは抹消組織でエネルギー源として利用されたり、乳腺に取り込まれて乳糖の原料になったりします(図2-3)。