シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第十回 骨からのCa放出は分娩直後すぐには反応しない」

1 Ca欠乏性の低Ca血症

(1)骨のCa蓄積不足→高泌乳時の不足を泌乳後期~乾乳期に蓄積回復不足

(2)分娩後のCa供給不足→泌乳開始による急激なCa要求量の増加

2 Ca過剰性の低Ca血症→Ca排泄機構のコントロール

 

分娩後、生まれた新生子牛に初乳を飲ませるため搾乳をしますが、それまで乳にCaを排泄することの無い状態で生体内ではCaの出納バランスがとれていました。しかし搾乳の開始と同時に乳へのCaの排泄が始まります。この排泄に見合うCaを乳腺に供給しなければなりません。第一回目に、NRC2001年版P186には「分娩当日の泌乳開始に伴い、上皮小体ホルモン(PTH)の放出が起こり、①尿へのCa排泄を減少させ、②骨のCa再吸収(骨から血液中にCaを放出)を刺激し、③能動的な腸管からのCa輸送(吸収)を増強させるビタミンDの合成を増加させる。低Ca血症を最小限にするには、これら3つの作用全てが順調である必要がある。」と引用しました。ところが、②骨のCa再吸収(骨から血液中にCaを放出)が働かないのが事実のようです。1970年代から80年代には分娩後2週間は骨からのCa再吸収がないとされていました(図10-1)[1,2]。

今は、血中或いは尿中の骨代謝マーカーを測定して、骨の代謝状態を評価することができるようになりました。骨では常に、破骨細胞が古い骨を破壊して吸収する骨吸収と、破壊された場所に骨芽細胞が新しい骨を作る骨形成が行われています。今回はNTX(Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド)という破骨細胞が骨を分解しているときに出される物質を測定しました(図10-2)。

NTXの血中濃度は、分娩4日後から分娩前状態に戻っている、すなわち、骨からCaが放出されているということが分かりましたが、乳への大量のCa排出を補えるだけのCaの放出が行われているかどうかは不明です[3]。しかし、このデータでも、少なくとも分娩後3日間のCa供給は消化管からの吸収に頼るしかない、と言う事が分かると思います。

では、どのような対策をたてれば良いでしょうか?

 

[1]1970 Am J Physiol,219,1166-77

[2]1984 Am J Physiol,246,R698-704

[3]2015 J Dairy Sci. Dec;98(12):8688-97