シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第十一回 2つのCa吸収経路を使う」

 

今日は「1の(2)分娩後のCa供給不足→泌乳開始による急激なCa要求量の増加」の対応の仕方の提案です。

前回、分娩後3日間の血中へのCa供給は、消化管からの吸収に頼るしかない!というお話ししました。もうひとつ厄介なのが、老齢牛では、腸上皮細胞のビタミンD受容体の数が減ってしまうということです(表11)[1]。そう、老齢牛ではCa代謝機能が劣ってきているので緊急時の骨からのCa動員は望めないのです。では、どのようにすれば消化管からのCa吸収を効率よくできるのでしょうか?

第二回でお話ししたように、腸でのCa吸収は、細胞内吸収と腸上皮細胞間隙吸収の二つの経路があります(図2)。そして第三回でお話ししたようにオリゴ糖が細胞間隙吸収を高めてくれます(図3-2)。図11-1は横軸が腸内のCa濃度で右に行く程濃度が高くなっています[2]。縦軸は吸収されたCa量です。細胞内吸収は腸管内Ca濃度が高まるほど吸収率はだんだん低下していきますが、細胞間隙吸収は腸管内Ca濃度に比例して直線的に増加します。実際に吸収されるCa量は細胞内吸収量+細胞間隙吸収量になります。

これでお解かりになるように、泌乳開始時のような、骨からのCa放出が無く、急激にCa吸収量を高める必要がある場合は、細胞間隙吸収を活用し、消化管内Ca濃度を高めることが効率的です。

例えていうと(図11-2)、細胞内吸収は、細胞内Ca結合蛋白、カルビンディン(CB)君がバケツに水(Ca2+)を入れて走って運んでいる。水の供給源にたくさんの水があっても、バケツ1杯の量は限られており、CB君の走るスピードにも限界があります。

ところが細胞間隙吸収は、ホースで水(Ca2+)を流しているのですが、タイトジャンクション(TJ)君がそのホースを踏んで、本来のスムーズな水の流れを邪魔している状況です。水の供給源にたくさんの水があれば、このTJ君の妨害を阻止して、スムーズに多くの水を移動させることができる、というイメージです。第三回でお話ししたDFAさんの働きは、意地悪TJ君がホースを踏んで水を流さないようにしているのを、怖いDFAさんが来たとたん、TJ君はホースを踏むのをやめて、スムーズに水が流れるようになる、というイメージです。DFAⅢの効果は、図11-1でいうと細胞間隙吸収の傾き0.37±0.02という数字がさらに大きくなる、ということです。この経路は消化管内のCa濃度を上げれば上げるほどCaが吸収されるので、DFAⅢを用いて消化管内のCa濃度を上げ、分娩直後の血中Ca濃度を上げるために使わない手はないでしょう。

[1]1991 J Dairy Sci 74:4022-4032

[2]2003 J Cell Biochem 88;387-393