シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第六回 骨へのCa蓄積は泌乳後期から乾乳前期がチャンス」

今回は前回の続きです。

泌乳中~後期になると泌乳量が減少してきます。ということは乳を通した体外へのCa排泄量が減ってくるということです。この期間、過肥にならないように給与飼料の栄養価を落としたくなりますが、Ca給与量は、泌乳初期から最盛期にかけて、骨から放出されたCaを補充するために重要であることを意識していただきたいです。

胎子の成長は受精後190日以降活発になります(図6-1)[1,2]。体重も大きくなりミネラルの要求量も増えてきます。そこで授精日を0日として131~157日の間に試験を開始し(グラフは試験開始日を0日とした)、28日間、対照区はNRC2001年版のCa要求量100-120%(吸収率は考慮しない)のCaを給与した群と、これに第三回目に出てきたオリゴ糖DFAⅢを給与した群で、右前足(右中手骨)と尻尾の骨(第4尾椎)の骨密度を測定しました[3]。二カ所の骨を測った理由は、中手骨は常に体重が掛かる骨(負重骨)で、第4尾椎は負重の掛からない骨(非負重骨)という違いがあるからです。

結果を図6-2に示しました。左の折れ線グラフが中手骨、右が第4尾椎の骨密度の推移を表しています。左の中手骨で▲のDFAⅢを給与した群は試験開始日(0日)を基準として、14、21,28日目の方が骨密度が高くなっています。一方、●の対照群は7日目と14日目で0日よりも高くなりましたが、その後は差がなくなっています。第4尾椎の骨密度は▲のDFA群が0日目に比べて28日目有意に高くなりましたが、●の対照群ではいずれの日数においても差が出ませんでした。

給与された飼料のそれぞれの栄養素は、摂取された物が全て吸収される訳ではなく、給与された飼料の形態、飼料中の成分、或いはそのバランスや量によって吸収率が変わってきます[1]。今回の試験では、要求量の120%のCaを給与したにもかかわらず、対照群では継続した骨密度の上昇が認められませんでした。吸収率を考慮していない要求量の給与では、負のCaバランスを回復させるだけのCaの吸収ができず、Ca吸収促進作用のあるDFAⅢの併給でCaの吸収率を上げることによって,ようやく骨密度回復のためのCa吸収ができるようになったのだと思われます。

 

[1] NRC P104

[2] C L Ferrell, ら  J Anim Sci Mar;54(3):618-24(1982)

[3] Ayami MAETANI ら J Vet Med Sci 80(7)1061-7(2018)