シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第二回 腸には2通りのカルシウム吸収経路が存在する」

十二指腸には2通りのカルシウム(Ca)吸収経路が存在します(図)。

細胞内吸収

一つの経路は、腸上皮細胞内を、エネルギーを使って能動的にCa移動させる細胞内吸収で、血中Ca濃度が低下すると、上皮小体から上皮小体ホルモン(PTH)が放出され、PTHが腎臓でビタミンDを活性化し、その活性化されたビタミンDが腸上皮細胞のビタミンD受容体と結合して腸上皮細胞内にカルビンディン(CB)というCa結合蛋白を発現させ、腸管内から生体内へカルシウムイオン(Ca2+)を移動させます[1]。このほかPTHは、尿からのCa排泄抑制とリンの排泄促進、骨からのCa排出(骨吸収と言います)を促進する作用があります[1]。

低Ca血症予防のために、乾乳後期には、Ca摂取量40~50g、リン摂取量40~50gに制限する[2]と言うようなCaの給与を制限することが勧められていましたが、これは、PTHの分泌を刺激して活性型ビタミンDの産生を増やすことによって腸上皮細胞内のCB発現を高め、この経路の活用を図ろうとするものです。さらに、後の回でお話しするCaの過剰給与を避ける意味もあります。

また、他の予防方法としては分娩1週間前にビタミンD3を1,000万IU1回の筋肉注射をし、投与後8日で分娩に至らなければ再度同量を筋肉内投与する[2]ことも勧められています。これも、この経路を使ったCa吸収を強化しようとする方法です。しかし分娩日を正確に予測することは難しく、ビタミンDを投与するタイミングの難しさ、過剰投与の副作用、すなわち軟組織の石灰化[2、3]の問題もあります。

細胞間隙吸収

もう一つの経路は、腸上皮細胞と腸上皮細胞の間隙をCa2+が「濃度勾配」によって、濃度の高い方から低い方へ受動的に移動する細胞間隙吸収で[1]、細胞と細胞を固定しているタイトジャンクション(TJ)という結合物が物質の通過を制御しています[4]。このTJを刺激することができるオリゴ糖については、あらためて後の回で紹介します。そして消化管粘膜上の消化液のCa2+の濃度が6mM(6mg/dl)を超えると、Caの吸収は消化管のあらゆる部位の細胞間隙吸収が起こるといわれています[5]。

牛の解剖学的構造として、十二指腸の直前には強酸性の胃液を分泌する第四胃があり、ここで酸性化されたCaはイオン化されて、二つのCa吸収経路を持つ十二指腸に流れ込むことになります。

[1]獣医生理学 第二版 33.内分泌腺とその機能、カルシウムとりん酸の代謝 P475-83

[2]主要症状を基礎にした牛の臨床3、27起立不能(困難)を示す疾患 乳熱(産褥麻痺、分娩性低カルシウム血症)(2020)

[3]NRC2001 P188-9

[4]Gabriela Diaz de Barbozaら World J Gastroenterol Jun 21;21(23)7142-54 (2015)

[5]Bronner F.ら J Nutr 117;1347-1352 (1987)

(著 大谷昌之)