シリーズ 乳牛の分娩前後の低カルシウム血症(乳熱)を考える「第三回 カルシウム吸収を促進するオリゴ糖DFAⅢ」

オリゴ糖Di fructose Anhydride(以下DFA)は、チコリーの根から抽出されたイヌリンを原料に、酵素合成されたフラクトースが2分子結合した難消化性オリゴ糖で、ⅠからⅣまで存在しますが、工業的に生産されているのはⅢのみです(図3-1)。参考までに図の下に砂糖(ショ糖)を載せていますが、砂糖はグルコースとフラクトースが結合したオリゴ糖です。DFAⅢの甘味は砂糖の半分程度と言われています[1]。DFAは、1930年代には発見されていましたが[2]、腸内細菌叢を改善する作用はなく放置されていました。1990年代に入って、ミネラル吸収促進作用が確認され[3]、人用サプリメント、そして牛用のサプリメントの開発が進められました。前回お話ししたように、十二指腸でのカルシウム(Ca)吸収経路は腸上皮細胞の中を通る細胞内吸収と腸上皮細胞間隙を通る細胞間隙吸収の2通りあります。DFAⅢは細胞間隙吸収を制御している細胞と細胞を繋げているタイトジャンクション(TJ)に作用して腸管内Caを濃度勾配によって体内へ流入させます[4]。イメージとしては、DFAⅢが細胞間隙のCaが通る専用の通路の幅を広げてCaを通りやすくする感じです(第二回図参照)。

牛でのDFAⅢ投与試験の結果をご紹介します。分娩2週間前から1週間後まで、DFAⅢを1日40g給与した群(給与群)と、していない群(対照群)で、血中Ca、リン(P)濃度の推移を観察した結果が図3-2です[5]。分娩時にはどちらの群も血中Ca、P濃度は低下しますが、給与群の低下は一時的で、その回復が非常に早く、Ca、P濃度は分娩6時間後には対照群より高い値になっています。給与群では血中Ca濃度が早く回復することによって、尿へのCa排泄を抑制しPの排出を促進する上皮小体ホルモン(PTH)の分泌が抑制されます。対照群では血中Ca濃度の回復が遅れるためPTHが分泌され、その作用により尿へのPの排出が促進される結果、対照群では血中P濃度の回復が非常に遅くなっています。DFAⅢにはP吸収促進作用は確認されていません。

この試験で産次数別に血清Ca濃度が9mg/ml以上に回復するのに要した時間を表3-1に示しました。対照群ではどの産次数においても回復に2日から3日要していますが、給与群では、6産以上で50時間かかったものの、5産以下ではほぼ24時間で回復しています。

DFAⅢの吸収促進効果が確認されているミネラルはCa、マグネシウム、亜鉛、鉄の4種類です。逆に、DFAⅢはカビ毒の吸収を抑制する効果があることが示されています[6]。闇雲にTJを広げて何でも取り込むのではなく、必要なモノの吸収は促進し、不要なモノは入れない!という効果があります。

 

[1] 菊地裕人ら 農業および園芸 第75巻第9号955-958(2000)

[2] Jackson R.F.ら J Res Natl Bur Stand 6,709-715(1931)

[3] Sakurai H.ら Biosci Biotech Biochem 61(1),87(1997)

[4] Mineo Hら  Dig Dis Sci 49(1)122-32(2004)

[5] Teramura Mら J Dairy Sci Dec;98(12)8688-97(2015)

[6] Toda K.,らToxins 10(6)223 (2018)